デビューアルバム「Nyatiti Diva」でワールドミュージックシーンに大センセーショナルを巻き起こしたANYANGOのセカンドアルバム「HORIZON」 が早くもドロップ!
ANYANGO率いるNyatiti Warembo!!の幾重にも重なるコーラスが強力にパワーアップ!
バンドスタイルのリズムセクションを従えて、厚みを増すグルーヴは更に加速する!!
1. Nkosi sikelel’ iAfrika
2. Ochieng Kochieng
3. Horizon
4. Koro aa
5. To thumno ywak kanye?
6. 風 ~Nyatiti Tatu
7. Sweet Poison
8. Jacaranda ~ジャカランダ
9. Joseph Otieno
10.赤い大地 ~Red Ground
1. Nkosi sikelel’ iAfrika 〜神よ、アフリカに祝福を
アニャンゴのセカンドアルバム『HORIZON』は南アフリカ国歌、Nkosi Sikelel’ iAfrikaから幕を開ける。このアニャンゴ一人によるアカペラ多重録音は、4声からなるコーラスパートでアニャンゴがそれぞれのパートを6回づつ歌い、合計24ボイスの多重録音となっている。この楽曲の持つ力強さや、広大なアフリカ大陸のイメージが、アニャンゴの透明感溢れる声で美しく重なり合っている。
この曲は賛美歌として作曲され、黒人解放運動の象徴的な曲としてアフリカで広く親しまれている曲である。アニャンゴが歌っているのは南アフリカ共和国の国歌バージョンでコサ語、ズールー語、アフリカーンス語、英語の4つの言語で構成されている。この曲のメロディは南アフリカ共和国以外でも国歌として採用されていて、ザンビア、タンザニア、独立当初のジンバブエでも歌われている。その他にもスワヒリ語に訳されたものもある。
曲順は先頭の曲として採用されたが、実際にレコーディングされたのは、アルバム録音日程の最終日である。リズム隊も帰京し、ワレンボもそれぞれの予定を終え、スタジオから離れた日の翌日から、この曲の制作は始まった。ワレンボ達の嬌声で賑やかだった芸森スタジオは落ち着きを取り戻し、数名のスタッフを残すのみとなっていた。一面を雪に囲まれたスタジオで、厳かな中にも、もうすぐこの地平線を超える、というアニャンゴの心の震えが、この歌に現れているのではないか、と思う。
2. Ochieng Kochieng
原曲はアニャンゴがニャティティの師匠から授かったルオ族の伝統曲。アニャンゴwithニャティティワレンボ!! がアニャンゴを中心とするダンスグループから佐藤太志朗、垣内雄太というリズムセクションを得た事で、それまでの表現力を飛躍的に上げるきっかけとなった曲である。昨年、「Nyatiti Diva」リリースパーティで披露された時と同じ様にワレンボ・カワラのカウントによってこの曲はスタートする。
この曲は、ウゲニャ村からやってきたオチエンという人物の逸話が歌われている。詳しい対訳はCDをご参照頂きたいと思うけれども、この曲でテーマとされているのは、食料と飢えというシリアスな問いかけである。もっとも、ルオー語の歌詞は直訳ではその歌の真意を掴む事が非常に難しい。そのルオー語の対訳は世代が変ると意味が変る、と言う事が往々にしてあるからである。年輩の言う意味と、若い世代では意味の捉え方が変ってくるのだ。
3. Horizon
今回のセカンドアルバムのハイライトの一つでチームアニャンゴの総力で作曲された曲。ニャティティのフレーズ、歌詞はアニャンゴとプロデューサーである私との共作。多くの新しい試みがなされた曲で、ニャティティのフレーズにサンバのベースライン、ファンクのドラム、アフロキューバンのパーカッションにワレンボのゴスペルコーラスという構成である。
ニャティテイのフレーズは、伝統的なフレーズでは無く全く新しい運指とリズムで作られている。非常に難易度の高いフレーズでこのフレーズはケニアのニャティティプレイヤーでも簡単に弾く事は出来ないのでは、と思われる。パーカッショニストの佐藤太志朗氏はアニャンゴとは旧知の仲で、以前アニャンゴがリーダーだったバンド、大華のメンバーでもある。コンガ、ボンゴ、シェーカー、クラーベ、ウッドブロック等々、ドラム以外のパーカッションサウンドは全て佐藤太志朗氏の演奏。ベース、ドラム、パーカッション、という強力なリズムセクションを得た事でアニャンゴのボーカルは更に突き抜けている。
この曲は当初、My Hillという仮のタイトルが付けられていた。英語で直訳すると「私の丘」という意味になるが、これがルオ語になると「私の使命」という意味になる。楽曲制作のリハーサルを繰り返している内に、丘を超え、地平線にたどり着く。日本語歌詞の箇所は3つの4行詩からなり、ルオ語の歌詞へと曲は展開して行く。このルオ語による歌詞はアニャンゴによる創作で、アニャンゴが現地で習得したルオ語を組み立てて、お世話になった村の人々に対する敬愛を歌っている。
4. Koro aa 〜もういかなくちゃ
曲のイントロで、アニャンゴのニャティティの師匠であり、ルオの長老のオクム氏がワンフレーズ歌ってからアニャンゴの演奏に切り替わって行く。歌詞はアニャンゴがアレゴ村での修業を終え日本に帰る頃の心境を師匠が歌に託したもの。
日本からインドを経てケニアに渡り、音楽の修業をして、日本に帰るというアニャンゴの旅を凝縮した曲である。これも伝統曲からのアレンジであるが、アレンジに当たってはゴスペルのアレンジが施されている。7thのコーラスはブルース的でもあり、アフリカ音楽がアメリカに渡ってブルース、ジャズに発展したイメージでコーラスパートを編曲した。また、ハーレム等の黒人教会では必須の楽器、ハモンドオルガンB3のサウンドも後半から曲を盛り上げ、アニャンゴがあたかもゴスペル教会の牧師になったかの様なアレンジになった。
5. To thumno ywak kanye? 〜どこで鳴っているの?
アフリカ現地録音による雨の音からこの物語は始まる。「その音楽はどこから聞こえてくるのだろう?」と問いかけている曲。ルオ伝統曲からのアレンジ。
アニャンゴの声は、伸びやかな突き抜ける声からささやくような優しい声まで幅広い表現力を持つ。今まではこのようなウィスパーボイスは、ライブでもレコーディングでもなされなかったが、今回のCDで初めてチャレンジした。
アニャンゴはライブ演奏の時に曲の一部でこの様な囁くボーカルをところどころに散りばめて曲にダイナミクスを作る事がある。その優しい声を全面に打ち出して表現してみたら、更にアニャンゴの世界は広く深くなるのではないか、というアイディアからこの曲のアレンジは生まれた。コーラスはアニャンゴとワレンボ、途中のパッドコーラスはアニャンゴとワレンボ・カワラの二人の声。
6. 風 ~Nyatiti Tatu
ニャティティの三重演奏による佳曲。パーカッション以外の演奏、コーラスは全てアニャンゴによるもの。アニャンゴが通常使っているニャティティとおそらく世界で一台しかないミニニャティティ(通常のニャティティより二回り小さいサイズ)による演奏。この曲のイメージは、中央アフリカのイトゥリ族の歌を意識したとアニャンゴは語っている。
『HORIZON』のレコーディング日程は連日長時間に及び、アニャンゴの旅そのもの。旅の途中には疲れて座り込む事もあるだろう。この曲をレコーディングした日は、あたかもその様な状況でレコーディングされた。旅路の果て、故郷から遠く離れ、風が運んだ不思議な音楽、そんなイメージが感じてもらえたら、とアニャンゴは語っている。
7. Sweet Poison
作詞作曲はアニャンゴによるオリジナルで、歌詞はスワヒリ語。コーラスはアニャンゴとワレンボ(カワラ、トモエ、サワコ)のレギュラーメンバー。8分の6拍子の曲で『出会いと別れ、そして旅立ち』を歌ったアニャンゴとして活動してから初めてのラブソング。(アニャンゴ談)
相手の事を思いやりつつも、それでもアニャンゴは自分の決めた道を前進するという決意に満ちた曲。アニャンゴ作曲のオリジナル曲なので、ニャティティの他にカヤンバ(パーカッションの一種)、ピアノを演奏している。
ピアノは芸森スタジオのスタインウエイ・フルコンサートDを使用した。ピアノを弾くのは久しぶりだと、アニャンゴはレコーディング中に語っていたが、シンプルな演奏にアニャンゴの詩的センスが光っている。
8. Jacaranda ~ジャカランダ
前半のルオ語、後半の日本語歌詞によって構成されている組曲ジャカランダは、アニャンゴの音楽的実験によって作曲された。アニャンゴが編曲した当初は10分近くに及ぶ大作だった。
前半は伝統曲からのアレンジで、後半からはアニャンゴの作曲になる。タイトルになったジャカランダは南半球のアフリカ、中米で多く見られる落葉性の高木で薄紫色の美しい花を咲かせる。ケニアではナクル市近郊にジャカランダの並木道があり、ナイロビからルオ族の居住地域に向かう途中で必ず通過するところでもある。
この曲は『HORIZON』というアルバムの色彩、イメージカラーを作った曲で、CDジャケットのアニャンゴの着ている衣装はジャカランダの花をイメージしている。マタトゥに乗って旅を続けるアニャンゴ、バスはジャカランダの並木を走り、窓を開けると藤色の花びらが風に舞っていた、そんな情景を思い浮かべて頂けると嬉しく思う。
9. Joseph Otieno
ルオ伝統曲からアニャンゴ編曲による、今回のCDのハイライトの一つと言えるアップテンポのダンスチューン。アニャンゴのライブでも度々演奏されているのでご存知の方も多いと思う。が、演奏する方にとってはとても難易度の高い曲である。
通常、音楽には表拍と裏拍という概念があり、表拍にアクセントがあるのが一般的である。しかしルオの音楽ではこの表拍と裏拍の概念が逆になっている曲も多数ある。この曲はその典型とも言えるリズム構成で、ニャティティは3拍目から、歌とリズムは4拍目の裏から、パーカッションは表拍、というように楽器によってアクセントの位置が全て異なるのだが、それが一体となることで非常に強いリズムを産み出している。大迫力のコーラスはアニャンゴ、カワラ、トモエ、サワコのレギュラーメンバーに、ライブやレコーディングのサポートメンバーのリリィ、ヒロコも加わり総勢6人が4声づつ歌い、更にカウンターコーラスも入る。コーラスだけで合計42人分である。
ルオ語の歌詞はその相手と同じイマジネーションを共有できるかどうか、でその解釈が決まる場合がある。この曲の歌詞もまた非常に難解なアイロニーに満ちていて、意味合い的には鎮魂歌に近い意味を持っている。
10.赤い大地 ~Red Ground
アニャンゴの『HORIZON』、地平線への旅はこの曲でクライマックスを迎える。作詞、作曲はアニャンゴとプロデューサー兼ベースの私との共作。この曲はスワヒリ語で歌われており、歌詞をスワヒリ語化するのにワレンボ・カナコの協力を得て作詞された。
この曲のニャティティのフレーズもアルバムタイトル曲、Horizonと同様に、伝統奏法ではあり得ない複雑な運指で、恐らくこのアルバムで最も難易度が高いフレーズだろう。
ドラムとベースによる裏拍のアクセントが、つんのめるような疾走感を作り、その上で6種類のパーカッションがリズムを彩る。コーラスは前曲のジョセフのコーラスアレンジと同様に42人分の合唱隊。
アニャンゴのセカンドアルバム『HORIZON』は、ケニア・ルオの民族音楽から、その表現領域をゴスペル、サンバ、ブルース、ファンクとジャンルを横断して世界に唯一無二のアニャンゴ独自の世界を作り上げた。新たな音楽の地平を目指しながら、アニャンゴがどこから来て、どこへ向かっているのか、と言う事をこの曲で表現している。