ニャティティは、ケニア・ルオの伝統楽器

全身オーケストラ

ケニアの伝統楽器ニャティティは、一人でパーカッション(打楽器)とストリングス(弦楽器)とヴォーカルの三役をこなす楽器だ。ギターは外側に表面を向けて抱えて弾くけど、ニャティティは表面を自分の体に向けて、楽器と向き合って弾く。弾き方も、抱きかかえて弾くのではなくて、地面に置いて、自分も低い椅子に座って、身体とは少しばかり距離を離して弾く。右足首に「ガラ」という鉄の鈴をつけて、右足親指には「オドゥオンゴ」という鉄の輪を引っかける。それをニャティティの木のへりにゴツゴツとあててリズムを生み出しながら、歌い、弾く。三つ以上の仕事を同時にこなすんだから、全身オーケストラのようだ。これが、見た目よりも相当難しい。

8本の弦には意味がある

ニャティティは、別名「カンバナネ」ともいう。直訳するとスワヒリ語でカンバ(糸)ナネ(8)だ。つまり、「8本の弦」ということになる。大きさは、アコースティックギターより2周りくらい小さい。胴の部分はイチジクなどの木をくりぬき、半球状になっている。そして、半球の面の側に牛の皮を張る。弦は8本の釣り糸(つまりナイロン弦)でできており、太さは三種類。昔は弦にメス牛のアキレス腱を使っていたそうだ。ビーンビーンと長く、渋く響く音の正体は、サワリの部分にある。細い竹のようなもの(ヨシ)2本と木片が蜜蝋(みつろう)で止めてある。

なぜニャティティの弦は8本なのか。なぜ男性しか弾かないのか。なぜニャティティと呼ばれるのか。これらの全てには理由がある。ルオー族の人たちにとって、「男性の生まれる時の4日間、亡くなってからの4日間」は特別な意味がある。ニャティティの弦の下4本は生まれる時の4日間を表し、上4本は亡くなった時の4日間を表している。だから、ルオー族の人たちにとって、女性がニャティティを弾くということは、例えば、日本の大相撲に外国の女性力士が登場するくらいありえないことだったのだ。